事務所の外に、黒い影が見えました。
一瞬、クマかと身構えますが、大きさが全然違います。
この事務所には、黒猫が日向ぼっこに来ます。
ただ、昨今はクマの出没情報をよく耳にするので、黒いものが視界の端に入ると、脳が先に「クマ」と判断するようになりました。
黒猫はこちらに用事があるわけではありません。
たぶん、日当たりがいいだけです。
最初のころは、少し近づくだけですぐに逃げていました。
最近は、こちらが通っても、片目を開けて確認するだけになりました。
「ああ、いつもの人か」
そう思っているのかは分かりません。
信用されたというより、逃げるほどの相手ではないと判断されたくらいでしょう。
それでも、最初よりは少しだけ昇格しました。
この黒猫、ときどき赤い首輪をしています。
ところが、していない日もあります。
外しているのか。
見えないだけなのか。
それとも、よく似た黒猫が二匹いるのか。
土地や建物なら、登記を調べる方法がありますが、黒猫にはありません。
今のところ、「たぶん、いつもの猫」で済ませています。
姿を見かけるようになると、ちゅ〜るでもあげたくなります。
ただ、飼い猫なら勝手に食べ物をあげるのは違う気もします。
かわいいから近づきたい。
でも、こちらの都合で距離を縮めるのも少し違う。
もっとも、黒猫はそんな難しい話をしに来ているわけではありません。
日当たりのよい場所で、気持ちよく眠りたいだけです。
考えすぎているのは、いつも人間のほうです。
ちゅ〜るは、まだあげていません。
名前もつけていません。
それでも、姿が見えると少しうれしくなります。
黒猫は黒猫の都合で来て、黒猫の都合で帰っていく。
近づきすぎず、追いかけず、来たときには静かに見守る。
片目を開けてこちらを確認し、安心したようにまた眠ってくれれば、それで十分です。
