境界標が、ひとつ見つからない。

土地を売る。

古い住宅を売る。

建物を解体して、宅地として引き渡す。

不動産の売買では、土地の境界を確認する場面がわりと頻繁に出てきます。

造成されたばかりの宅地や、新築建売住宅を買うときは、境界標がきちんと入った状態で引き渡されることが多いので、買う側からするとあまり意識しません。

四隅に杭がある。

はい、ここまでがこの土地です。

分かりやすい。

問題は、その「分かりやすい宅地」が出来上がる前です。

境界標が、ひとつ見つからない。

たったひとつ。

でも、ないものの存在感が急に大きくなります。

売主様は「このまま売りたい」。買主様は「はっきりさせてほしい」

たとえば、昔から所有している土地や古い住宅。

売主様としては、

「現況のままで売りたい」

ということがあります。

建物も庭木もそのまま。

境界も、今分かる範囲で。

一方、買主様からすると、

「お隣との境界は、ちゃんと分かった状態で買いたい」

となる。

どちらの気持ちも分かります。

そして、ここで話がぶつかります。

境界標を新たに設置するとなれば、測量が必要になることがあります。

当然、費用もかかります。

測量して、隣接地の方にも確認してもらって、境界標を入れる。

土地の端に小さな杭を一本入れるまでに、意外と人が動きます。

その費用を見込んで売買価格を考えることもありますし、境界や古い建物などの問題も含めて引き受けられる住宅メーカーさんや買取業者さんに購入してもらうこともあります。

「杭がないので一本買ってきます」

では済まないところが、境界の面倒なところです。

ない。でも、昔はあったらしい

さらにややこしいことがあります。

現地には境界標が見当たらない。

ところが、法務局にある地積測量図などを見ると、過去に測量した時点では境界標があったことになっている。

では、どこへ行ったのか。

古い分譲地などでは、後から造った塀や土留めの下に埋まってしまっていることもあります。

舗装や砂利の下にいることもあります。

地震や工事などを経て、当時と状況が変わっている可能性もあります。

塀の下にいるのか。

工事のどさくさでどこかへ行ったのか。

こういう場合は、分かっていることと分からないことを契約書類に記載し、現地でも説明します。

「ここにあるはずです」と断定するのではなく、

測量図上ではこの位置。

現地では確認できない。

塀の下にある可能性もあるが正確にはわからない。

そういう状態をそのまま共有して、納得いただいたうえで取引することもあります。

スケールで測って、砂利を掘る

以前、花巻の比較的新しい住宅を仲介したときのことです。

測量図を見ると、境界標はある。

でも、現地では見つからない。

場所は砂利敷きの駐車場でした。

「埋まってるんじゃないか」

となります。

そこでスケールを持って現地へ。

確認できる別の境界標から距離を測ります。

測量図と見比べながら、

この辺。

もう少し右。

たぶんここ。

狙いをつけて、スコップで砂利を掘ります。

不動産屋の仕事として想像されるのは、契約書を作ったり、物件をご案内したりする姿だと思います。

実際には、駐車場の隅で地面を掘っている日もあります。

近くを通った人から見れば、

「何か埋めた人」

か、

「何かを探している人」

です。

できれば後者だと思っていただけると助かります。

必須アイテムはスコップと軍手

この作業で大事なのが、スコップと軍手です。

特に軍手。

一度、持っていくのを忘れたことがあります。

「まあ、ちょっと掘るくらいなら」

と思って手で砂利をかき分けました。

ちょっとでは済みませんでした。

終わった頃には指と爪が傷だらけです。

その日以来、境界標を探しに行くときの軍手への信頼はかなり厚くなりました。

もちろん、掘れば必ず見つかるわけではありません。

見つからなければ、なぜないのか。

測量が必要なのか。

そのまま取引できるのか。

お隣と何か話があったのか。

所有者様に聞き、ときには近隣の方にも事情を伺います。

境界標が見つからないこと自体より、その後ろに何があるのかの方が大事です。

土地の端にある、小さなもの

境界標は、小さいです。

コンクリート杭だったり、金属のプレートだったり。

普段暮らしているぶんには、ほとんど見ることもありません。

でも土地を売るとなった瞬間、その小さなもの存在感が急に大きくなります。

ある。

ない。

埋まっている。

昔はあったらしい。

その違いで、測量の話になったり、売買条件の話になったり、ときにはお隣との昔の話まで出てきます。

不動産の仕事では、存在しているものを調べるだけではありません。

見つからないものを、探しに行くこともあります。

その日に備えて、車にはスコップと軍手。

境界標より先に、この二つの所在だけは確認しておこうと思います。

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